結城昌治『長い長い眠り』(創元推理文庫)

 やっと本の感想を載せるときが来ました。

 で、記念すべき第一回は、結城昌治『長い長い眠り』。去年の冬ごろ、中公文庫で刊行された『暗い落日』を皮切りに、光文社や創元で続々と復刊されている結城昌治だが、本書は著者の初期代表シリーズ「郷原部長刑事」ものの第二作。

 明治神宮外苑近くの林の中で男の死体が発見される。死体は上半身はシャツとネクタイを身に付けているのに、下半身はなぜかパンツ一枚だった。事件の捜査にあたる郷原部長ほか四谷署刑事課の面々であったが、被害者を中心とする人間関係の複雑さに苦戦を強いられ、例によって行き詰まりを見せ始めるのであった。

 「ひげ」をキーワードに事件の展開や謎の設定で読者を見事に作品世界へとひっぱっていった前作『ひげのある男たち』と比べると、ほとんどが事件関係者の惚れたはれたの話で占めてられている本作は、警察のおじさん達が地味に捜査しているのを淡々と読んでいる気分にしかならない感が否めない。推理の部分も論理性に富んだものではなく、これまた前作ほどの出来のよさは感じられない。
 ただ、ラストの事件の真相に対する皮肉めいた文章はさすが結城昌治というべき。著者自身も言っているが、悲劇の中の喜劇性というか、人間の性(さが)みたいものをおもしろおかしく、かつその裏に(ほんのちょっぴり)哀愁を漂わせるのが、結城昌治という作家の得意とするところだろう。ユーモアがあるけれど、どことなく悲観的な人間観も垣間見せている点では、『白昼堂々』の結末にも通ずるものがある。
 郷原のキャラクター云々については『仲のいい死体』を読んでから語る、ということにしよう。
 本格ミステリとしての完成度は第一作に軍配があがるが、郷原部長シリーズ、あるは結城昌治の「ちょっと毒々しいユーモア」が気に入った方はご一読あれ。